遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の取扱い

  

 

○ 民法906条の2(遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の違反の範囲)【平成30年新設】

1項 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。
2項 前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。

1 制度趣旨

例えば、被相続人A、相続人甲(法定相続分1/2)、相続人乙(法定相続分1/2)、遺産は不動産(評価1000万円)で、甲が遺産分割前に不動産持分1/2を処分した。遺産分割の対象となる不動産持分1/2を、法定相続分に従って分割すると、甲に有利に過ぎ、乙に不利に過ぎ、甲乙間が不公平である。

原則:遺産分割の対象財産の要件

① 相続開始時に存在 + ② 遺産分割時に存在

例外
②の要件を満たさない場合でも、当事者が遺産分割の対象とすることに合意した場合は遺産分割の対象となる(例えば、代償財産について合意する場合)。

遺産分割前に相続人の一人が遺産を処分した場合において公平を保つするため、上記原則②の要件を欠くが、共同相続人の全員(処分した者を除く)の同意を要件として、遺産分割の対象とすることを認めた。

 改正前においては、共同相続人全員(処分した者を含む。)の同意を条件として、これを遺産分割の対象とする運用であり、その限りでは、共同相続人間の公平は保たれていたが、逆に、共同相続人全員の同意がない場合は、不公平であった。

2 処分の意義

(1)遺産共有となった預貯金の払戻し、不動産の共有持分の譲渡、遺産の動産を壊す行為
(2)被相続人の預貯金が相続開始前(被相続人の生前)が払い戻された場合は、本条の対象外である。

この場合は、相続人全員の合意により、① 払戻しをした相続人が払戻額相当金員を取得したものとして取り扱う、② 払戻しをした相続人が被相続人から贈与を受け、これが特別受益に当たるものとして取り扱う。ことが考えられるが、相続人全員(払戻しをした相続人を含む)の要件を満たされなければ(払戻しをした相続人が払戻しを否認した場合等)、訴訟で解決するほかない。

(3)第三者による処分

処分した者が相続人以外の第三者である場合を含む。これにより、第三者に対する損害賠償請求権や処分された財産に関する保険金請求権を遺産分割の対象することができる。

令和元年7月1日から施行される。同日前に開始した相続については、なお従前の例による(附則2条)。

3 留意事項

(1)遺産分割時に遺産として存在していると見なされるのは、当該処分された財産である。

(2)共同相続人の一人の債権者が、遺産共有となっている不動産の共有持分を差し押さえた場合にも適用がある。

① 共有持分が差し押さえられた場合 

 差押えがされた持分は、遺産から逸出されていない。

→ 差押えがされた持分は遺産分割の対象となる。

→ 当該持分は、差押えを受けた者に取得させる分割案が考えられる。

② ①の後、売却許可決定がされ、代金が納付された場合  

 当該持分について所有権移転の効果が生じた。

→ 差押えを受けた者が当該持分を処分したとして、民法906条の2を適用又は類推適用する。

(3)民法906条の2は、遺産分割をすることができることを前提として、処分された財産を遺産とみなすことができるとする規定である。

→ 遺産の全部が処分された場合には、そもそも、遺産分割ができない。

→ このため、民法906条の2は適用されない

 

【参照・参考文献】下記文献を参照、参考にして作成しました。

①東京家庭裁判所家事第5部編著 東京家庭裁判所家事第5部(遺産分割部)における相続法改正を踏まえた新たな実務運用(2019年、日本加除出版)14頁

②片岡武・管野眞一著 改正相続法と家庭裁判所の実務(2019年、日本加除出版)72頁

 

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