相続分の指定がある場合における債権者の権利の行使

<事案>

Aには、配偶者はおらず、子甲、子乙がいる。

Aは、資産として、預金100万円を有し、他方、Bに対し100万円の借入金返還債務を負う。

Aは、生前、甲の相続分を2/2、乙の相続分を0/2と指定する遺言をした。

A死亡後、乙は、誰に、幾ら、借入金の返還を請求できるであろうか。

 

○ 民法902条の2(相続分の指定がある場合の債権者の権利の行使)(平成30年改正により新設)

被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は、前条の規定による相続分の指定がされた場合であっても、各共同相続人に対し、第900条及び第901条の規定により算定した相続分に応じてその権利を行使することができる。

ただし、その債権者が共同相続人の一人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、この限りでない。

 

1 被相続人が第三者に対し負う、可分債務である金銭債務

(参考・参照文献178頁)

当然に相続分に従い分割される。(最判昭和34年6月19日)

(実質的論拠)共同相続人全員に分割されずに承継されると考えると、相続人の数だけ責任財産が増加することになり、相続債権者に、相続をきっかけとして、過大な保護を与えてしまう。

2 債務承継の割合

各指定相続分又は法定相続分に割合に従って、各相続人は承継する。

具体的相続分ではない。

被相続人は、積極財産と異なる割合で消極財産の相続分を指定することはできない。

3 第三者(相続債権者)に対する効力

本条は、旧法下の判例法理(最高裁平成21年3月24日)を明文化したものである。

① 相続債権者は各共同相続人に対し、

法定相続分の割合で分割された金銭債権を行使できる。

② 相続債権者は共同相続人の一人に対し、

指定相続分の割合での承継を承認した場合、

指定相続分の割合で分割された金銭債権を行使できる。

③ 相続債権者が共同相続人の一人に対し、

法定相続分の割合で分割された金銭債権を行使しよう

としたが実現しなかった場合、

相続債権者は共同相続人の一人に対し、

指定相続分の割合での承継を承認して、

指定相続分の割合で分割された金銭債権を行使できる。

 

【例】被相続人A、相続人甲(法定相続分1/2)、相続人乙(法定相続分1/2)

Aは、相続分を甲2/2、乙0/2と指定した。

Aには、Bに対する100万円の負債があった。

Aについて相続開始後、

① Bは、甲に対し、100万円×1/2=50万円、乙に対し、100万円×1/2=50万円をそれぞれ請求できる。

乙は、これを拒絶できない。

② Bは、相続分指定を認めて、甲に対し、100万円×2/2=100万円を請求できる。

この場合、甲は、自己が支払義務を負うのは、50万円だと主張することはできない。

③ Bは、乙に対し、100万円×1/2=50万円を請求したが、乙に資力はないので回収できなったので、次に、甲に対し、100万円×2/2=100万円を請求できる。

 

【参考・参照文献】潮見佳男 詳解相続法(平成30年、弘文堂)137頁

 

☆ 最高裁判所第三小法廷平成21年3月24日判決

(事案[分かりやすいように適宜修正しております]・争点)

平成15年7月

被相続人A 全財産を二人いる子(甲と乙)のうち一人(甲)に相続させる遺言を作成した(本件遺言)

平成15年11月

A死亡

相続開始時の資産負債

資産1億円 負債8000万円(本件債務)

相続人は甲と乙である。

平成16年4月

乙が甲に対し、遺留分減殺請求権(平成30年改正により遺留分侵害額請求権)を行使する。

遺留分侵害額の算出に当たり、本件負債の取扱いが争点となる。具体的には、次のとおりである。

甲の主張

① 本件遺言により本件債務は全額甲が負担することになる。

② (1億-8000万円)X1/4[個別的遺留分率]

→ 500万円

乙の主張

① 本件債務のうち、乙は、その1/2に当たる4000万円を負担する。

② (1億-8000万円)X1/4[個別的遺留分率]+4000万円 → 4500万円

(裁判所の判断)

結論として、甲の主張を認めた。判旨は次のとおり。

<相続人のうちの一人(甲)に対して財産全部を相続させる旨の遺言がされた場合>

① 遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人(甲)にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り、相続人(甲・乙)間においては、当該相続人(甲)が相続債務(本件債務)もすべて承継したと解される。

② 遺留分の侵害額の算定に当たり、遺留分権利者(乙)の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは許されない。

③ 相続債務の債権者(相続債権者)との関係

a 遺言による相続分の指定は、相続債権者は関与していないため、相続人債権者に対しては、その効力が及ばない。

b 乙は、相続債務(本件債務)の債権者から法定相続分に従った債務の履行を求められたときは、これに応じなければならない。

c 相続債権者の方から相続債務(本件債務)についての相続分の指定の効力を承認し、各相続人(甲、乙)に対し、指定相続分に応じた相続債務の履行を請求することは、妨げられない。

④ 遺留分侵害額の算定との関係

遺留分侵害額は、相続人間において、遺留分権利者の手元に最終的に取り戻すべき遺産の数額を算出するもの

a ①と解するため、②と解することになる。

b ③bの場合は、遺留分権利者(乙)が相続債務を全て承継した相続人(甲)に対し求償できる。

(判例解説、参考・参照文献)

① 髙橋譲 時の判例(有斐閣ジュリスト1421号98頁)

② 川淳一 相続分の指定がある場合の債権者の権利の行使

(改正902条の2)

加藤新太郎・前田陽一・本山敦編集 実務精選120

離婚・親子・相続事件判例解説172頁