令和3年民法(相続法分野)改正と遺産分割

令和3年民法(相続法分野)改正と遺産分割

第1 遺産共有と共有規定(文献①Q88・242頁)

○ 民法898条(共同相続の効力)                              1 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
2 相続財産について共有に関する規定を適用するときは、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分をもって各相続人の共有持分とする。

【解説】

1 はじめに 

 被相続人の死亡により相続が開始した場合において、相続人が数人ある場合(例えば、親が死亡して、子2人が相続人である場合)、相続財産は、相続人の共有となる(本条1項)。これを「遺産共有」という。この「遺産共有」は、民法物権編249条以下に規定されている「共有」と同じ性質であり、「共有」についての規定が適用される。

【令和3年改正】

1 改正前の民法は、遺産共有について、各相続人の共有持分の割合について明文規定を欠いていた。この点、理論的には、下記【A説】【B説】が考えられる。

【A説】法定相続分(民法900条~902条)(相続分の指定がある場合は、指定相続分)とする見解

【B説】具体的相続分 

 令和3年改正法は、次の理由から【A説】を採用し、本条2項を新設した。

① 具体的相続分は、遺産分割手続における分配の前提となるべき計算上の価格又はその価格の遺産の総額に対する割合を意味するものであって、実体法上の権利関係であるということはできない(判例[最判平成12年2月24日]の考え方)

② 平成30年改正法の考え方 民法899条の2(共同相続における権利の承継の対抗要件)の新設

③ 具体的相続分は、遺産分割の手続において、特別受益及び寄与分の有無及び額が定まらなければ、具体的な額を算定することが困難である。

2 「遺産共有持分」と「他の共有持分」が併存している場合

 共同相続人が法定相続分(又は指定相続分)に対応した共有持分を有していることを前提にして、共有に関する規定を適用する。

【事案】

甲1/2 & 乙1/2 共有 

    ↓ 甲死亡 ABが均等割合にて相続 

A1/4 & B1/4 & 乙1/2 

共有物の管理(民法252条1項):共有持分の価格の過半数により決定する。共有者全員の意見が一致しなくても、Aと乙の賛成、又はBと乙の賛成により決定できる。

 

第2 共同相続における権利承継の対抗要件

○ 民法899条の2(共同相続における権利の承継の対抗要件)
1項 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
2項 前項の権利が債権である場合において、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。

 

第3 遺産分割の時的限界

○ 民法904条の3(期間経過後の遺産の分割における相続分)
 前三条の規定は、相続開始の時から十年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
一 相続開始の時から十年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
二 相続開始の時から始まる十年の期間の満了前六箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から六箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。

【令和3年改正】

☆ 文献①Q89・245頁

1 遺産共有の早期解消の必要性

(1)相続発生 + 相続人が複数(共同相続人)

→ 遺産共有を解消するため、遺産分割が必要

→ 遺産分割には、時的限界がない。

→ 遺産の構成や相続人間の意見の相違等の事情のため、遺産分割まで相続開始後長期間かかる事案も少なくない。

(2)遺産分割の基準となる相続分は、特別受益や寄与分を考慮して法定又は指定相続分の割合を修正して算出した相続分(これを「具体的相続分」という。)である。

① 遺産分割に時的制限がないことから、相続人において、早期に遺産分割の請求をするインセンティブが働きにくい。

② 相続開始後長期間を経て、特別受益や寄与分を考慮するとなると、これらに関する書証が散逸し、関係者の記憶も薄れるため、遺産分割を円滑に実施することが困難になる。

→ 令和3年改正法は、具体的相続分による利益を相続開始時から10年を経過した後は消失させ、下記①②の場合を除き、民法903条~904条のの2を適用しないこととした。

① 相続開始の時から10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。(本条1号)→2
② (ⅰ)相続開始の時から始まる10年の期間の満了前6か月以内の間に、(ⅱ)遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、(ⅲ)その事由が消滅した時から6か月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。→3

2 相続開始の時から10年を経過する後に、具体的相続分による遺産分割をすることができる場合(その1)(本条1号)(文献①Q90・248頁)

① 相続開始時から10年経過前に、相続が家庭裁判所に請求(申立て)をしたとき 

 調停・審判が相続開始時から10年を経過した後であっても、遺産分割の基準は具体的相続分となる。

② ①のの要件を充足しておれば、寄与分の請求(寄与分を定める処分の審判の申立て)は、相続開始時から10年を経過した後であってもよい。但し、家事事件手続法193条。

3 相続開始の時から10年を経過する後に、具体的相続分による遺産分割をすることができる場合(その2)(本条2号)(文献①Q90・249頁)

(ⅰ)相続開始の時から始まる10年の期間の満了前6か月以内の間に

(ⅱ)遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合 

 やむを得ない事由について

① 相続人毎に判断する。

② 相続人において相続開始の事実(被相続人の死亡)を知らなかったという事情(主観的事情)だけではなく、相続人において遺産分割の請求をすることを期待することができない事情(客観的事情)があることが必要である。

【例1】長期間生死不明であった被相続人が発見されたが、死亡時点から10年を経過していたことが判明した場合

【例2】相続開始時から10年経過前に、遺産分割の請求がされたが、10年を経過する直前に(※)、遺産分割の請求が取り下げられた場合 

※ 相続開始時から10年経過後に遺産分割の請求(調停・審判の申立て)の取下げを行うためには、相手方の同意が必要である。家事事件手続法199条2項、273条2項 

③ やむを得ない事由は、(ⅰ)の期間の全てにわたって継続的に存在しているまでの必要はなく、(ⅰ)の期間のいずれかの時点で存在していれば足りる。

(ⅲ)その事由が消滅した時から6か月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。

4 相続開始の時から10年を経過する後に、具体的相続分による遺産分割をすることができる場合(その3)(解釈)(文献①Q90・250頁)

 遺産分割は、相続人間の合意によって、することができる性質であるから、

(1)相続開始時から10年経過後、相続人全員が、法定相続分又は指定相続分による分割を放棄して、具体的相続分による遺産分割協議をすることは可能である。

(2)相続開始時から10年経過後、相続人が具体的相続分による遺産分割を実施するとの合意をした場合

① 上記合意があれば、裁判所は、上記合意に基づき、遺産分割の調停・審判をすることになる。

② 合意時点が、相続開始時から10年経過後であることが必要である。民法146条の趣旨参照。

 

第4 遺産分割の禁止

○ 民法908条(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)
1項 被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。
2項 共同相続人は、五年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割をしない旨の契約をすることができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から十年を超えることができない。
3項 前項の契約は、五年以内の期間を定めて更新することができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から十年を超えることができない。
4項 前条第二項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、五年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から十年を超えることができない。
5項 家庭裁判所は、五年以内の期間を定めて前項の期間を更新することができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から十年を超えることができない。

 

【参照・参考文献】下記文献を参照、参考にして作成しました。

①村松秀樹・大谷太編著 Q&A令和3年改正民法・改正不登法・相続土地国庫帰属法(2022年、きんざい)

 

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