相続財産の保存・管理

 

 

相続財産の保存のための相続財産管理人

(文献①Q80・222頁)

 

民法第5編 相続

第3章 相続の効力

1 令和3年改正前

(1)統一的な規定はなく、相続手続の各段階において、個別に規定が設けられていた。

① 相続の承認又は放棄まで 民法918条2項

② 限定承認後 民法926条2項 

③ 相続放棄後 民法940条2項

(2)改正前の法の問題点

① 共同相続人が相続の単純承認~遺産分割

  = 相続財産が暫定的な遺産共有状態 

  であるにもかかわらず、

 相続財産の保存に必要な処分に関する規定が設けられていない。

② 相続人のあることが明らかでない場合 

  相続財産管理人の制度:相続財産の清算が目的 →相続財産の保存に必要な処分に関する規定が設けられていない。

③ 相続の各段階(上記(1))において、相続財産の保存に必要な処分が必要となる。

2 令和3年改正法

○ 民法897条の2(相続財産の保存)【令和3年改正で新設】
1項 家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の管理人の選任その他の相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。

 ただし、相続人が一人である場合においてその相続人が相続の単純承認をしたとき、相続人が数人ある場合において遺産の全部の分割がされたとき、又は第九百五十二条第一項の規定により相続財産の清算人が選任されているときは、この限りでない。
2項 第二十七条から第二十九条までの規定は、前項の規定により家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合について準用する。

(1)改正法の趣旨 改正前の法の問題点(上記1(2))を踏まえて、この問題点を解消するため改正された。

① 相続の段階にかかわらず、いつでも、家庭裁判所は、相続財産の管理人の選任その他の相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる(包括的な規定)。

→ 上記1(2)①②の事案で、相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。

② 相続の段階が異なるものとなった場合においても、継続的に、相続財産の管理を実施することができる。

 なお、改正前の法・民法926条2項は、改正後の包括的な相続財産管理制度に取り込まれた。

3 「相続財産の保存に必要な処分を命ずる」(改正法・民法897条の2・1項)ための要件(文献Q81・225頁) 

(1)相続人がいる場合は、まず、相続人において相続財産を管理すべき。

よって、処分を命ずる必要性があるといえる場合(類型)とは、 

① 相続人が、相続財産に属する物について保存行為をしない場合

② 相続人のあることが明らかでないために、財産の物理的状態や経済的価値を維持することが困難である場合

(2)処分を命ずることができない場合(本条1項ただし書)

 下記①②③は、いずれも、相続財産を管理すべき者がいる場合である。

① 相続人が一人である場合においてその相続人が相続の単純承認をした場合

② 相続人が数人ある場合において遺産の全部の分割がされた場合

③ 相続財産の清算人(民法952条1項)が選任されている場合

(3)所有者不明土地管理制度との関係

 文献①226頁(注2)

4 「相続財産の保存のための相続財産管理人」の権限、義務等(文献①Q82・227頁)

(1)「相続財産の保存のための相続財産管理人」の職務、権限、担保提供、報酬 

 不在者財産管理制度に関する民法27条~29条(※)を準用する。(本条2項)

第27条(管理人の職務)                  1項 前二条の規定により家庭裁判所が選任した管理人は、その管理すべき財産の目録を作成しなければならない。この場合において、その費用は、不在者の財産の中から支弁する。
2項 不在者の生死が明らかでない場合において、利害関係人又は検察官の請求があるときは、家庭裁判所は、不在者が置いた管理人にも、前項の目録の作成を命ずることができる。
3項 前二項に定めるもののほか、家庭裁判所は、管理人に対し、不在者の財産の保存に必要と認める処分を命ずることができる。

第28条(管理人の権限)                  管理人は、第百三条に規定する権限を超える行為を必要とするときは、家庭裁判所の許可を得て、その行為をすることができる。不在者の生死が明らかでない場合において、その管理人が不在者が定めた権限を超える行為を必要とするときも、同様とする。

第103条(権限の定めのない代理人の権限)                          権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する。
一 保存行為
二 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為

第29条(管理人の担保提供及び報酬)           1項 家庭裁判所は、管理人に財産の管理及び返還について相当の担保を立てさせることができる。
2項 家庭裁判所は、管理人と不在者との関係その他の事情により、不在者の財産の中から、相当な報酬を管理人に与えることができる。

(2)「相続財産の保存のための相続財産管理人」の権限

① 家庭裁判所の許可を得ないで行うことができる行為

 (本条2項→民法28条)

ⅰ 保存行為 

ⅱ 相続財産である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為

② 家庭裁判所の許可を要する行為

  ①を超える行為(本条2項→民法28条)

 相続財産管理人は、相続財産の保存のために選任されるものである。

→ 家庭裁判所の許可を受けるために、相続財産の一部を売却することが必要かつ相当である事情が必要である。

③ 相続債務の弁済(文献①230頁(注2)) 

 相続債務は、相続財産管理人の管理の対象ではない。

→ 相続債務の弁済は、本来的には、相続財産管理人の職務に含まれない。

 → 相続債務の弁済が必要&相当である場合は、その弁済は、相続財産管理人の職務に含まれると解する。但し、弁済原資の調達のため相続財産を処分するには、家庭裁判所の許可が必要である(本条2項)。

(3)「相続財産の保存のための相続財産管理人」の義務

 相続財産管理人は、善良な管理者の注意をもって、その権限を行使しなければならない。

(家事事件手続法190条の2・2項→同法125条6項→民法644条、646条、647条、650条)

 注意義務の相手方:相続人or相続財産法人 

 相続債権者、受遺者は義務の相手方となるか?(解釈)

(4)訴訟の追行 

 文献①229頁

5 「相続財産の保存のための相続財産管理人」による供託(文献①Q83・231頁)

(1)「相続財産の保存のための相続財産管理人」が、相続財産の処分により金銭等が生じた場合

① 相続人に金銭等を引き渡すべき

  → 相続人が相続財産の管理に関心がない場合、

    相続人に金銭等を引き渡すことができない。

② 相続人のあることが明らかでない事案

  → 相続人に金銭等を渡すことができない。

 

→ 相続財産管理人は、相続財産の管理、処分その他の事由により金銭が生じた場合、供託所に供託することができる。

家事事件手続法190の2・2項→同法146条の2・1項

供託の公告

家事事件手続法190の2・2項→同法146条の2・2項

6 「相続財産の保存のための相続財産管理人」の職務の終了(文献①Q83・232頁)

① 相続人が相続財産を管理することができるようになった場合

② 管理すべき相続財産がなくなった場合

③ 相続財産管理人が相続財産の管理を継続することが相当でなくなった場合

ⅰ 相続人が一人である場合においてその相続人が相続の単純承認をした場合

ⅱ 相続人が数人ある場合において遺産の全部の分割がされた場合

 相続財産の清算人(民法952条1項)が選任されている場合

ⅳ 崖地の崩落防止の措置を行うために選任された相続財産管理人がその職務を終え、他に管理行為がない場合

 

相続財産管理人or利害関係人の申立て OR 職権で、

相続財産管理人の選任の処分は取り消される。

家事事件手続法190の2・2項→同法147条

 

相続を放棄した者による相続財産の管理

(文献①Q84・234頁)

 

第4章 相続の承認及び放棄

第3節 相続の放棄

 

○ 民法940条(相続の放棄をした者による管理)       1項 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。                            2項 第六百四十五条、第六百四十六条、第六百五十条第一項及び第二項並びに第九百十八条第二項及び第三項の規定は、前項の場合について準用する。【令和3年改正前】

 

○ 民法940条(相続の放棄をした者による管理)                      1項 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
2項 第六百四十五条、第六百四十六条並びに第六百五十条第一項及び第二項の規定は、前項の場合について準用する。

【令和3年改正】

1 令和3年改正前 

 相続放棄者による相続財産の管理継続義務 

 次順位の相続人が相続財産の管理を始めることができるまで

(問題点)

① 法定相続人全員が相続放棄し、次順位の相続人がいない場合に、誰が管理継続義務を負うか?

② 相続放棄者が相続財産を占有していない場合にまで管理継続義務を負うか? 

等について規定上明確でなく、また、解職如何によっては、相続放棄者が過剰な負担を強いられる。

2 令和3年改正法

① 義務を負う場合を限定

 放棄の申述時に、相続財産を現に占有している場合に限定した。

② 義務の内容

 相続財産の保存にとどまり、それを超えた管理義務を負うことはない。

③ 義務の終期 

 相続人又は相続財産清算人(民法952条1項)に対し相続財産を引き渡すまで 

※ 相続財産の引渡しを受けるべき者が相続財産の受領を拒否した場合、又は受領不能の場合(法定相続人全員が相続放棄したが、相続財産清算人が選任されていない場合)文献①235頁(注)

① 相続放棄者は、相続財産を供託(民法494条1項1号2号)することによって、管理義務を終了させる。

② 相続財産が供託に適さない場合等は、相続放棄者は、裁判所の許可を得て、競売に付し、代金を供託(民法497条)によって、管理義務を終了させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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【参照・参考文献】

① 村松秀樹・大谷太編著 Q&A令和3年改正民法・改正不登法・相続土地国庫帰属法(2022年、きんざい)

② 潮見佳男 詳解相続法第2版(2022年、弘文堂)159頁

③ 日本弁護士連合会所有者不明土地問題等に関するワーキンググループ編新しい土地所有法制の解説 所有者不明土地関係の民法等改正と実務対応(2021年、有斐閣)253頁