相続財産の清算
相続財産の清算
第1 令和3年改正の意義
(文献①Q85・236頁)
1 令和3年改正前(法文)
○ 旧民法918条(相続財産の管理) 1項 相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、相続の承認又は放棄をしたときは、この限りでない。
2項 家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。
3項 第二十七条から第二十九条までの規定は、前項の規定により家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合について準用する。
☆ 2項は、926条2項、940条2項で準用される。
○ 民法936条(相続人が数人ある場合の相続財産の管理人)
1項 相続人が数人ある場合には、家庭裁判所は、相続人の中から、相続財産の管理人を選任しなければならない。
2項 前項の相続財産の管理人は、相続人のために、これに代わって、相続財産の管理及び債務の弁済に必要な一切の行為をする。
3項 第九百二十六条から前条までの規定は、第一項の相続財産の管理人について準用する。この場合において、第九百二十七条第一項中「限定承認をした後五日以内」とあるのは、「その相続財産の管理人の選任があった後十日以内」と読み替えるものとする。
○ 民法952条(相続財産の管理人の選任) 1項 前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければならない。
2 前項の規定により相続財産の管理人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なくこれを公告しなければならない。
2 令和3年改正法(法文)
○ 民法918条(相続人による管理) 相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、相続の承認又は放棄をしたときは、この限りでない。
☆ 旧2項は、新897条の2に統合された。
○ 民法936条(相続人が数人ある場合の相続財産の清算人)
1項 相続人が数人ある場合には、家庭裁判所は、相続人の中から、相続財産の清算人を選任しなければならない。
2項 前項の相続財産の清算人は、相続人のために、これに代わって、相続財産の管理及び債務の弁済に必要な一切の行為をする。
3項 第九百二十六条から前条までの規定は、第一項の相続財産の清算人について準用する。この場合において、第九百二十七条第一項中「限定承認をした後五日以内」とあるのは、「その相続財産の清算人の選任があった後十日以内」と読み替えるものとする。
○ 民法952条(相続財産の清算人の選任)
1項 前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の清算人を選任しなければならない。
2項 前項の規定により相続財産の清算人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なく、その旨及び相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、六箇月を下ることができない。
3 令和3年改正の意義
(1)旧法は、相続の各場面・段階において、「相続財産(の)管理人」制度を設けていた。
(2)これらの者の職務は、相続財産の管理を行うだけではなく、相続財産の清算(相続債権者の存否・相続債権の額等を確定したうえ相続財産[を処分して]をもって弁済する。)に及ぶことがあった。
→ 旧法は、異なる目的の下で、異なる職務を行うものについて、同一の呼称が与えられており、分かりにくく、混乱を招く(文献①236頁)。
新法は、家庭裁判所が選任する者の職務に応じて、次のとおり、呼称(ネーミング)した。
① 新897条の2
相続財産(の)管理人
② 新936条1項(限定承認の場合)、新952条1項(相続人のあることが明らかでない場合)
相続財産(の)清算人
第2 相続財産の清算
(文献①Q86・238頁)
以下は、令和3年改正前の実務運用を踏まえて、令和3年改正法を解説します。
民法第5編 相続
第6章 相続人の不存在
○ 民法951条(相続財産法人の成立)
相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。
○ 民法952条(相続財産の清算人の選任)
1項 前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の清算人を選任しなければならない。
2項 前項の規定により相続財産の清算人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なく、その旨及び相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、六箇月を下ることができない。
○民法953条(不在者の財産の管理人に関する規定の準用)
第二十七条から第二十九条までの規定は、前条第一項の相続財産の清算人(以下この章において単に「相続財産の清算人」という。)について準用する。
準用される不在者財産管理人の規定
□民法27条(管理人の職務)
1項 前二条の規定により家庭裁判所が選任した管理人は、その管理すべき財産の目録を作成しなければならない。この場合において、その費用は、不在者の財産の中から支弁する。
2項 不在者の生死が明らかでない場合において、利害関係人又は検察官の請求があるときは、家庭裁判所は、不在者が置いた管理人にも、前項の目録の作成を命ずることができる。
3項 前二項に定めるもののほか、家庭裁判所は、管理人に対し、不在者の財産の保存に必要と認める処分を命ずることができる。
□民法28条(管理人の権限)
管理人は、第百三条に規定する権限を超える行為を必要とするときは、家庭裁判所の許可を得て、その行為をすることができる。不在者の生死が明らかでない場合において、その管理人が不在者が定めた権限を超える行為を必要とするときも、同様とする。
□ 民法103条(権限の定めのない代理人の権限)
権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する。
一 保存行為
二 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為
□民法29条(管理人の担保提供及び報酬)
1項 家庭裁判所は、管理人に財産の管理及び返還について相当の担保を立てさせることができる。
2項 家庭裁判所は、管理人と不在者との関係その他の事情により、不在者の財産の中から、相当な報酬を管理人に与えることができる。
権限外行為許可(文献④Q27・85頁)
1 権限外の行為とはか
下記①②以外の行為=物又は権利の性質を変える管理行為、処分行為
① 保存行為
② 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為
2 権限外の行為の例
① 売却、交換、担保の設定
② 廃棄(財産的価値の有無による)
③ 「期限の到来した債務」以外の弁済
④ 「管理行為により発生した債務」以外の債務の弁済
⑤ 訴えの提起、訴えの取下げ、和解、調停(処分行為性を有するものに限られ、したがって調停の申立て自体は権原の範囲内)等
⑥ 民法602条の期間を超える賃貸借契約、借地借家法の適用のある賃貸借契約の締結
3 権限の範囲内の行為の例
① 預金の解約、保険契約の解約
② 貸金庫契約等、その契約を維持する必要がなく、かつ解除することにより使用料等の負担を免れるもの
③ 不動産仲介業者との媒介契約の締結
④ 代金支払債務の履行、受領
⑤ 事務管理費用の支払い
⑥ 掃除等の作業依頼(但し、費用が高額になる場合は権限外行為を許可を得て行うのが相当である。)
⑦ 樹木の剪定、建物の補修等(社会通念上許容される範囲)
⑧ 税金の納付
⑨ 火災保険契約の締結
⑩ 時効中断のための訴え提起
4 「権限内行為」と「権限外行為」の区別
事案に応じて、実質的に判断する。
動産の廃棄は、処分行為であり、権限外行為として裁判所の許可を要するように思われるが、対象財産が無価値物であり、国庫や特別縁故者への引継ぎが現実的に困難である場合は、保管費用等を考慮して、相続財産全体の維持・保全という趣旨から、権限の範囲内の行為として、裁判所の許可を受けることなく、相続財産管理人の判断により廃棄処分できる(文献④86頁)。
5 権限外行為許可の申立ての手続
(1)法文
家事事件手続法39条、家事事件手続法別表第1の99
(2)管轄
相続が開始した地の家庭裁判所(家事事件手続法203条1項)
(3)審理
当該行為が、相続財産管理のために必要であり、許可付与が相当であるか?
→ 当該相続財産の有する経済的価値に比して、保管・管理費用がどれだけかかるのか、当該相続財産を処分する費用がどの程度かかり、現実的に処分することが可能か否か、相続財産全体の管理費用に鑑み、これを処分する必要がどの程度あるかなどを検討する(文献④87頁)。
6 事後報告
① 管理報告書・財産目録の提出
当該権限外行為がなされ次第
② 経過・進捗状況の報告
審判から3か月経過しても、対象行為が完了しない場合
○民法954条(相続財産の清算人の報告)
相続財産の清算人は、相続債権者又は受遺者の請求があるときは、その請求をした者に相続財産の状況を報告しなければならない。
○民法955条(相続財産法人の不成立)
相続人のあることが明らかになったときは、第九百五十一条の法人は、成立しなかったものとみなす。ただし、相続財産の清算人がその権限内でした行為の効力を妨げない。
○民法956条(相続財産の清算人の代理権の消滅)
1項 相続財産の清算人の代理権は、相続人が相続の承認をした時に消滅する。
2項 前項の場合には、相続財産の清算人は、遅滞なく相続人に対して清算に係る計算をしなければならない。
○民法957条(相続債権者及び受遺者に対する弁済)
1項 第九百五十二条第二項の公告があったときは、相続財産の清算人は、全ての相続債権者及び受遺者に対し、二箇月以上の期間を定めて、その期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、同項の規定により相続人が権利を主張すべき期間として家庭裁判所が公告した期間内に満了するものでなければならない。
2項第九百二十七条第二項から第四項まで及び第九百二十八条から第九百三十五条まで(第九百三十二条ただし書を除く。)の規定は、前項の場合について準用する。
○民法958条(権利を主張する者がない場合)
第九百五十二条第二項の期間内に相続人としての権利を主張する者がないときは、相続人並びに相続財産の清算人に知れなかった相続債権者及び受遺者は、その権利を行使することができない。
○民法958条の2(特別縁故者に対する相続財産の分与)
1項 前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2項 前項の請求は、第九百五十二条第二項の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。
○民法959条(残余財産の国庫への帰属)
前条の規定により処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する。この場合においては、第九百五十六条第二項の規定を準用する。
【参照・参考文献】
① 村松秀樹・大谷太編著 Q&A令和3年改正民法・改正不登法・相続土地国庫帰属法(2022年、きんざい)236頁
② 潮見佳男 詳解相続法第2版(2022年、弘文堂)頁
③ 日本弁護士連合会所有者不明土地問題等に関するワーキンググループ編新しい土地所有法制の解説 所有者不明土地関係の民法等改正と実務対応(2021年、有斐閣)頁
④大阪財産管理研究会編著 家庭裁判所の財産管理実務(2022年、大阪弁護士協同組合)
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