管理不全土地管理命令、管理不全建物管理命令
管理不全土地管理命令、管理不全建物管理命令
第1 はじめに(文献①Q70・197頁)
1 令和3年改正前の状況
土地・建物が所有者(甲)によって適切に管理されていない場合
→荒廃・老朽化する【管理不全状態】
→当該土地・建物の近隣の土地所有者等(乙)に対し、権利侵害又はその危険を及ぼす。
→乙は甲に対し、所有権に基づく妨害排除・予防請求権、不法行為による損害賠償請求権を行使する。
→権利はあるが、状況によっては、救済や損害填補に実効性が乏しい。
2 令和3年改正法の概要
管理不全土地管理制度・管理不全建物管理制度を創設
① 所有者による土地・建物の管理が不適当であることによって他人の権利・法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合
② 当該土地・建物を対象として、
③ 債務者が、利害関係人の請求により、
④ 管理不全土地管理人・管理不全建物管理人による管理を命ずる処分(管理不全土地管理命令、管理不全建物管理命令)を可能とするもの
第2 管理不全土地管理命令
○ 民法264の9(管理不全土地管理命令) 1項 裁判所は、所有者による土地の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、当該土地を対象として、管理不全土地管理人(第三項に規定する管理不全土地管理人をいう。以下同じ。)による管理を命ずる処分(以下「管理不全土地管理命令」という。)をすることができる。 2項 管理不全土地管理命令の効力は、当該管理不全土地管理命令の対象とされた土地にある動産(当該管理不全土地管理命令の対象とされた土地の所有者又はその共有持分を有する者が所有するものに限る。)に及ぶ。 3項 裁判所は、管理不全土地管理命令をする場合には、当該管理不全土地管理命令において、管理不全土地管理人を選任しなければならない。
1 管理不全土地管理命令の実体要件(文献①Q71・199頁)
① 所有者による土地の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合(本条1項)
所有者による管理がされていない場合のみならず、所有者による管理がされているが適切でない場合も含まれる。
【例1】土地に設置された擁壁にひび割れ・破損が生じているが土地所有者がこの状態を放置しており、隣接土地に倒壊するおそれがある。
【例2】土地上に不法投棄されたゴミを土地所有者が放置し、臭気やハエ等が発生し、周辺土地の居住者に健康被害を生じさせている。
② 必要があると認めるとき(本条1項)
土地の管理状況等に照らし、管理不全土地管理人による管理を命ずることが必要かつ相当である場合
①の【例1】【例2】は、必要・相当の要件を充足する。
必要・相当の要件を充足しない場合
【例3】管理不全土地管理人が実効的な管理をすることが困難であると見込まれる場合
土地所有者が管理不全土地管理命令の発令に反対しており、管理不全土地管理人による管理を妨害することが予想される場合(文献①200頁(注2)
【例4】申立人が土地管理のために必要となる予納金を準備できない場合
2 管理不全土地管理命令の手続要件(文献①Q72・201頁)
「利害関係人」(本条1項):管理不全土地管理命令の請求の対象とされている土地の管理について利害関係を有する者
1①【例1】の隣接土地の所有者、【例2】の健康被害を受けている者
3 管理不全土地管理命令の効力が及ぶ範囲(文献①Q73・204頁)
① 命令対象の管理不全土地
② ①の土地上の動産で、「土地の所有者又は共有持分を有する者」が所有するものに及ぶ。(本条2項)
「 」の意味 → 第三者が所有する動産には管理不全土地管理命令の効力は及ばない。
→ そうすると、土地上に不法投棄されたゴミは、管理不全土地管理命令の効力が及ばない。
BUT 通常は、所有権が放棄されて所有者のないものとなっていると認定することができる。
そうすると、管理不全土地管理人はゴミを適法に処分することができる。(文献①204(注1))
○ 民法264条の10 (管理不全土地管理人の権限)
1項 管理不全土地管理人は、管理不全土地管理命令の対象とされた土地及び管理不全土地管理命令の効力が及ぶ動産並びにその管理、処分その他の事由により管理不全土地管理人が得た財産(以下「管理不全土地等」という。)の管理及び処分をする権限を有する。 2項 管理不全土地管理人が次に掲げる行為の範囲を超える行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。ただし、この許可がないことをもって善意でかつ過失がない第三者に対抗することはできない。
一 保存行為
二 管理不全土地等の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為 3項 管理不全土地管理命令の対象とされた土地の処分についての前項の許可をするには、その所有者の同意がなければならない。
1 管理不全土地管理人の管理処分権の対象となる財産(文献①Q73・202頁)
<管理不全土地等>
① 管理不全土地管理命令の対象とされた土地
② 管理不全土地管理命令の効力が及ぶ動産
③ ①②の管理、処分その他の事由により管理不全土地管理人が得た財産
2 管理不全土地管理人の権限(文献①Q73・203頁)
(1)裁判所の許可を要しない行為
① 保存行為(本条2項一号)
② 管理不全土地等の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為(本条2項二号)
(2)裁判所の許可を要する行為(本条2項本文)
土地所有者の財産状態に与える影響を考慮して、裁判所の要許可事項とした。更に、②については、土地所有者の意思を尊重する観点から、裁判所が許可するには、土地所有者の同意を必要とする(本条3項)。
① (1)を超える行為 (例)田畑を宅地に造成する工事
② 処分
(3)管理不全土地管理人が、裁判所の要許可事項であるにもかかわらず、裁判所の許可を得ないでした行為の効力
(原則)土地所有者に対し効果が生じない。
(例外)善意無過失の第三者に対抗できない。(本条2項ただし書)
(4)管理不全土地管理人による供託
管理不全土地管理人が対象土地等を売却した場合
① 土地所有者(共有者)が売却等によって生じた金銭等の支払の受領に応じる場合
② 土地所有者(共有者)が売却等によって生じた金銭等の支払の受領に応じない場合
売却等によって生じた金銭等を土地所有者(共有者)のために供託できる(非訟事件手続法)。+公告(非訟事件手続法91条5項)
(5)管理不全土地管理命令と訴訟(文献①Q74・206頁)
管理不全土地管理命令は、所有者不明土地管理命令と異なり、対象土地についての管理処分権は管理人に専属せず、所有者が管理処分権を喪失することはない(文献①202~203頁参照)。
① 所有者は、自ら、管理不全土地等に関する訴えを提起することができる。また、第三者が提起した管理不全土地等に関する訴えについて、被告として応訴する。
② 所有者が管理人による管理を妨害する場合(例:土地への立入りを不当に拒む)、管理人は、所有者を相手方として、管理権侵害を理由として妨害請求権請求権を行使することができる。その一環として、自ら、原告として訴えを提起することができる。
○ 民法264条の11(管理不全土地管理人の義務)
1項 管理不全土地管理人は、管理不全土地等の所有者のために、善良な管理者の注意をもって、その権限を行使しなければならない。 2項 管理不全土地等が数人の共有に属する場合には、管理不全土地管理人は、その共有持分を有する者全員のために、誠実かつ公平にその権限を行使しなければならない。
1 管理不全土地管理人の義務(文献①Q73・204頁)
(1)善良な管理者の注意義務(本条1項)
① 趣旨
管理不全土地管理人が権限を行使するに当たり、土地所有者(共有者)の利益が害されないようする。
② 注意義務の相手方
①→土地所有者(共有者)
(2)誠実・公平義務(本条2項)
① 趣旨
対象土地等が数人の共有に属する場合 管理不全土地管理人が権限を行使するに当たりねある共有者の利益を図り、ある共有者の利益を擬制にすることを禁止する。
② 注意義務の相手方 ①→土地共有者
○ 民法264条の12 (管理不全土地管理人の解任及び辞任)
1項 管理不全土地管理人がその任務に違反して管理不全土地等に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるときは、裁判所は、利害関係人の請求により、管理不全土地管理人を解任することができる。
2項 管理不全土地管理人は、正当な事由があるときは、裁判所の許可を得て、辞任することができる。
1 管理不全土地管理人の解任及び辞任(文献①Q75・207頁)
(1)解任(本条1項)
① 実体要件
管理不全土地管理人がその任務に違反して管理不全土地等に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるとき
② 手続要件
ⅰ 利害関係人の請求
ⅱ 裁判所の解任
(2)辞任(本条2項)
① 実体要件
正当な事由
② 手続要件
裁判所の解任
○ 民法264の13 (管理不全土地管理人の報酬等)
1項 管理不全土地管理人は、管理不全土地等から裁判所が定める額の費用の前払及び報酬を受けることができる。
2項 管理不全土地管理人による管理不全土地等の管理に必要な費用及び報酬は、管理不全土地等の所有者の負担とする。
1 管理不全土地管理人の費用及び報酬(文献①Q75・207頁)
(1)管理不全土地管理人の費用・報酬(本条1項)
管理不全土地管理人は、管理不全土地等(①管理不全土地管理命令の対象土地、②管理不全土地管理命令の効力が及ぶ動産、③①②の管理、処分その他の事由により管理不全土地管理人が得た財産)から裁判所が定める額の費用の前払及び報酬を受けることができる。
管理不全土地等から費用・報酬を受けることができない場合は、管理不全土地管理人は、申立人が裁判所に予納した予納金から支払を受けることとなる。
(2)所有者の負担(本条2項)
管理不全土地管理人の費用・報酬は、所有者の負担となる。その引当ては、管理不全土地等に限定されない。
第3 管理不全土地管理命令に関する裁判手続
(文献①Q76・209頁)
(はじめに)管理不全土地管理命令は、非訟事件手続法(非訟法)の定めによる。
1 管轄裁判所
土地の所在地を管轄する地方裁判所(非訟法91条1項)
2 管理不全土地管理命令に関する裁判
番号 | 裁判の種類 | 即時抗告権者(※) |
1 | 管理不全土地管理命令の申立てについての裁判
(264条の9・1項) |
(認容の裁判に対し)利害関係人(例 対象土地の所有者) |
2 | 管理不全土地管理人の選任の裁判 | |
3 | 管理不全土地管理人が所定の範囲を超える行為をするための許可の申立てについての裁判
(264条の10・2項) |
(認容の裁判に対し)対象土地の所有者 |
4 | 管理不全土地管理人の解任の申立てについての裁判
(264条の12・1項) |
(認容の裁判に対し)利害関係人(例 管理不全土地管理人) |
5 | 管理不全土地管理人の辞任の許可の申立てについての裁判(264条の12・2項) | |
6 | 費用又は報酬の額を定める裁判
(264条の13・1項) |
(費用)管理不全土地管理人
(報酬)管理不全土地管理人、対象土地の所有者 |
7 | 管理不全土地管理命令の変更、取消し又は取消しの申立てを却下する裁判(非訟法91条6・7項) | 利害関係人(例 管理不全土地管理命令の申立人) |
(1)陳述の聴取(文献①209頁)
① 基本的には、裁判所の裁量に委ねられている。
② 土地所有者の手続保障を図る観点
→ 1、3、6の裁判 土地所有者の陳述を聴く必要がある。
(非訟法91条3項1号2号5号)
1の裁判で、土地所有者の陳述を聴く手続を経ることにより、申立ての目的を達することができない事情がある場合(例:管理命令の必要性はあるが、土地所有者と連絡がとれない場合)、裁判所は、同陳述を聴かないでよい(非訟法91条3項ただし書)。
③ 4、6の裁判 管理不全土地管理人の陳述を聴く必要がある。
(非訟法91条3項3~5号)
(2)即時抗告(文献①213頁)
① 管理不全土地管理命令に関する裁判
当事者以外に不服申立てを認めるべき場合がある。
範囲を明確にするために、即時抗告権者を明確にした(非訟法91条8項)。
② 申立てを却下した裁判に対し
申立人に限り、即時抗告できる(非訟法66条2項)。
3 管理不全土地管理命令の裁判の告知・効力
管理不全土地管理命令を発令する場合
(1)告知の相手方(非訟法56条1項)
① 申立人
② 裁判を受ける者=管理不全土地管理人、管理不全土地等の所有者
(2)裁判の効力(非訟法56条2項)
(1)②の者に告知することによって、効力を生ずる。
4 管理不全土地管理命令以外の裁判の告知・効力
(1)告知の相手方(非訟法56条1項)
2の番号3、4、5、6の裁判
① 申立人
② 裁判を受ける者=管理不全土地管理人
(2)裁判の効力(非訟法56条2項)
(1)②の者に告知することによって、効力を生ずる。
5 管理不全土地管理命令の取消し(非訟法91条7項)等
(1)取消しの事由
① 管理すべき財産がなくなった場合
② ①のほか、財産の管理を継続することが相当でなくなった場合
(2)取消しの手続
① 申立て(申立人:管理不全土地管理人or利害関係人[対象土地の所有者を含む])
② 職権
③ 裁判所は、管理不全土地管理命令を職権で変更し、又は取り消すことができる(非訟法91条6項)。
第4 管理不全建物管理命令
○ 民法264条の14(管理不全建物管理命令)
1項 裁判所は、所有者による建物の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、当該建物を対象として、管理不全建物管理人(第三項に規定する管理不全建物管理人をいう。第四項において同じ。)による管理を命ずる処分(以下この条において「管理不全建物管理命令」という。)をすることができる。 2項 管理不全建物管理命令は、当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物にある動産(当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物の所有者又はその共有持分を有する者が所有するものに限る。)及び当該建物を所有するための建物の敷地に関する権利(賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(所有権を除く。)であって、当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物の所有者又はその共有持分を有する者が有するものに限る。)に及ぶ。 3項 裁判所は、管理不全建物管理命令をする場合には、当該管理不全建物管理命令において、管理不全建物管理人を選任しなければならない。 4項 第二百六十四条の十から前条までの規定は、管理不全建物管理命令及び管理不全建物管理人について準用する。
【参照・参考文献】
① 村松秀樹・大谷太編著 Q&A令和3年改正民法・改正不登法・相続土地国庫帰属法(2022年、きんざい)
② 潮見佳男 詳解相続法第2版(2022年、弘文堂)頁
③ 日本弁護士連合会所有者不明土地問題等に関するワーキンググループ編新しい土地所有法制の解説 所有者不明土地関係の民法等改正と実務対応(2021年、有斐閣)頁
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