遺産分割の具体的方法
民法第5編 相続
第3章 相続の効力
第3節 遺産の分割
(906条~914条)
遺産分割の手続
遺産分割の手続には、次の3種類があります。
① 遺産分割協議による分割
共同相続人全員が協議した上、合意により遺産分割する手続です。
根拠法令:民法907条1項
② 遺産分割調停による分割
家庭裁判所の調停により遺産分割する手続です。
根拠法令:民法907条2項、家事事件手続法244条、別表第2[12]項 、同法274条1項(裁判所の職権による付調停)
③ 遺産分割審判による分割
家庭裁判所の審判により遺産分割する手続です。
根拠法令:民法907条2項本文、家事事件手続法191条~200条、244条、別表第2[12]項
家事事件手続法
第2編 家事審判に関する手続
第1章 総則
第2章 家事審判事件
第13節 遺産の分割に関する審判事件(191条~200条)
191条(管轄)
1項 遺産の分割に関する審判事件は、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する。
2項 前項の規定にかかわらず、遺産の分割の審判事件(別表第二の十二の項の事項についての審判事件をいう。以下同じ。)が係属している場合における寄与分を定める処分の審判事件(同表の十四の項の事項についての審判事件をいう。次条において同じ。)は、当該遺産の分割の審判事件が係属している裁判所の管轄に属する。
192条(手続の併合等)
遺産の分割の審判事件及び寄与分を定める処分の審判事件が係属するときは、これらの審判の手続及び審判は、併合してしなければならない。数人からの寄与分を定める処分の審判事件が係属するときも、同様とする。
193条(寄与分を定める処分の審判の申立ての期間の指定)
1項 家庭裁判所は、遺産の分割の審判の手続において、一月を下らない範囲内で、当事者が寄与分を定める処分の審判の申立てをすべき期間を定めることができる。
2項 家庭裁判所は、寄与分を定める処分の審判の申立てが前項の期間を経過した後にされたときは、当該申立てを却下することができる。
3項 家庭裁判所は、第一項の期間を定めなかった場合においても、当事者が時機に後れて寄与分を定める処分の申立てをしたことにつき、申立人の責めに帰すべき事由があり、かつ、申立てに係る寄与分を定める処分の審判の手続を併合することにより、遺産の分割の審判の手続が著しく遅滞することとなるときは、その申立てを却下することができる。
194条(遺産の換価を命ずる裁判)
1項 家庭裁判所は、遺産の分割の審判をするため必要があると認めるときは、相続人に対し、遺産の全部又は一部を競売して換価することを命ずることができる。
2項 家庭裁判所は、遺産の分割の審判をするため必要があり、かつ、相当と認めるときは、相続人の意見を聴き、相続人に対し、遺産の全部又は一部について任意に売却して換価することを命ずることができる。ただし、共同相続人中に競売によるべき旨の意思を表示した者があるときは、この限りでない。
3項 前二項の規定による裁判(以下この条において「換価を命ずる裁判」という。)が確定した後に、その換価を命ずる裁判の理由の消滅その他の事情の変更があるときは、家庭裁判所は、相続人の申立てにより又は職権で、これを取り消すことができる。
4項 換価を命ずる裁判は、第八十一条第一項において準用する第七十四条第一項に規定する者のほか、遺産の分割の審判事件の当事者に告知しなければならない。
5項 相続人は、換価を命ずる裁判に対し、即時抗告をすることができる。
6項 家庭裁判所は、換価を命ずる裁判をする場合において、第二百条第一項の財産の管理者が選任されていないときは、これを選任しなければならない。
7項 家庭裁判所は、換価を命ずる裁判により換価を命じられた相続人に対し、遺産の中から、相当な報酬を与えることができる。
8項 第百二十五条の規定及び民法第二十七条から第二十九条まで(同法第二十七条第二項を除く。)の規定は、第六項の規定により選任した財産の管理者について準用する。この場合において、第百二十五条第三項中「成年被後見人の財産」とあるのは、「遺産」と読み替えるものとする。
195条(債務を負担させる方法による遺産の分割)
家庭裁判所は、遺産の分割の審判をする場合において、特別の事情があると認めるときは、遺産の分割の方法として、共同相続人の一人又は数人に他の共同相続人に対する債務を負担させて、現物の分割に代えることができる。
196条(給付命令)
家庭裁判所は、遺産の分割の審判において、当事者に対し、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。
197条(遺産の分割の禁止の審判の取消し及び変更)
家庭裁判所は、事情の変更があるときは、相続人の申立てにより、いつでも、遺産の分割の禁止の審判を取り消し、又は変更する審判をすることができる。この申立てに係る審判事件は、別表第二に掲げる事項についての審判事件とみなす。
198条(即時抗告)
1項 次の各号に掲げる審判に対しては、当該各号に定める者は、即時抗告をすることができる。
一 遺産の分割の審判及びその申立てを却下する審判 相続人
二 遺産の分割の禁止の審判 相続人
三 遺産の分割の禁止の審判を取り消し、又は変更する審判 相続人
四 寄与分を定める処分の審判 相続人
五 寄与分を定める処分の申立てを却下する審判 申立人
2項 第百九十二条前段の規定により審判が併合してされたときは、寄与分を定める処分の審判又はその申立てを却下する審判に対しては、独立して即時抗告をすることができない。
3項 第百九十二条後段の規定により審判が併合してされたときは、申立人の一人がした即時抗告は、申立人の全員に対してその効力を生ずる。
199条(申立ての取下げの制限に関する規定の準用)
第百五十三条の規定は、遺産の分割の審判の申立ての取下げについて準用する。
200条(遺産の分割の審判事件を本案とする保全処分)
1項 家庭裁判所(第百五条第二項の場合にあっては、高等裁判所。次項及び第三項において同じ。)は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、財産の管理のため必要があるときは、申立てにより又は職権で、担保を立てさせないで、遺産の分割の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間、財産の管理者を選任し、又は事件の関係人に対し、財産の管理に関する事項を指示することができる。
2項 家庭裁判所は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、強制執行を保全し、又は事件の関係人の急迫の危険を防止するため必要があるときは、当該申立てをした者又は相手方の申立てにより、遺産の分割の審判を本案とする仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができる。
3項 前項に規定するもののほか、家庭裁判所は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権(民法第四百六十六条の五第一項に規定する預貯金債権をいう。以下この項において同じ。)を当該申立てをした者又は相手方が行使する必要があると認めるときは、その申立てにより、遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部をその者に仮に取得させることができる。ただし、他の共同相続人の利益を害するときは、この限りでない。
4項 第百二十五条第一項から第六項までの規定及び民法第二十七条から第二十九条まで(同法第二十七条第二項を除く。)の規定は、第一項の財産の管理者について準用する。この場合において、第百二十五条第三項中「成年被後見人の財産」とあるのは、「遺産」と読み替えるものとする。
遺産分割の方法(総論)
1 遺産分割の方法と優先順位
(1)遺産分割の方法には、①現物分割、②代償分割、③換価分割、④共有分割の四種類がある。理論的な優先順位としては、①→②→③→④となる(最(三小)決昭和30年5月31日参照)。
(2)協議分割及び調停分割においては、当事者の合意が優先される手続であるため、(1)の優先順位は関係がない。
2 現物分割
(1)意義
個々の財産の形状や性質を変更することなく分割する方法(文献①406頁)
3 代償分割
(1)意義
一部の相続人に法定相続分を超える額の財産を取得させた上、他の相続人に対する債務を負担させる方法である(文献①410頁)。
家事事件手続法195条によると、現物分割に代えて代償分割を用いるためには「特別の事情」が必要である。
(2)代償分割の要件「特別の事情」及び要件(文献①410頁)
① 特別の事情(いずれか)
ⅰ 現物分割が不可能である場合
ⅱ 現物分割をすると、分割後の財産の経済的価値を著しく損なうため、不適当である場合
ⅲ 特定の遺産に対する特定の相続人の占有、利用状態を特に保護する必要がある場合
ⅳ 共同相続人間に代償金支払の方法によることについて、おおむね争いがない場合
② 要件
債務を負担することとなる相続人にその資力があること(最(一小)決平成12年9月7日)
(3)代償分割についての調停条項例
甲は、第3項の遺産を取得した代償として、乙に対し、50万円を支払うこととし、これを令和5年5月5日限り、乙が指定する口座に振り込む方法で支払う。なお、振込手数料は甲の負担とする。
(4)細目
4 換価分割
(1)意義
遺産を売却等で換金(換価処分)した後、代金を分配する方法である(文献①412頁)。
○ 民法906条(遺産の分割の基準)
遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。
本条項については、こちらのページをご覧ください。
https://neyagawa-souzoku.sumigama-law.com/archives/1676
○ 民法906条の2(遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲)
1項 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。
2項 前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。
本条項については、こちらのページをご覧ください。
https://neyagawa-souzoku.sumigama-law.com/archives/1648
○ 民法907条(遺産の分割の協議又は審判等)
1項 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。
2項 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。
3項 前項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。
本条項については、こちらのページをご覧ください。
https://neyagawa-souzoku.sumigama-law.com/archives/1676
○ 民法908条(遺産の分割との方法の指定及び遺産の分割の禁止)
被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。
○ 民法909条(遺産の分割の効力)
遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
○ 民法909条の2(遺産の分割前における預貯金債権の行使)
各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に第九百条及び第九百一条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。
本条項については、こちらのページをご覧ください。
https://neyagawa-souzoku.sumigama-law.com/archives/1667
○ 民法910条(相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権)
相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。
○ 民法911条(共同相続人間の担保責任)
各共同相続人は、他の共同相続人に対して、売主と同じく、その相続分に応じて担保の責任を負う。
○ 民法912条(遺産の分割によって受けた債権についての担保責任)
1項 各共同相続人は、その相続分に応じ、他の共同相続人が遺産の分割によって受けた債権について、その分割の時における債務者の資力を担保する。
2項 弁済期に至らない債権及び停止条件付きの債権については、各共同相続人は、弁済をすべき時における債務者の資力を担保する。
○ 民法913条(資力のない共同相続人がある場合の担保責任の分担)
担保の責任を負う共同相続人中に償還をする資力のない者があるときは、その償還することができない部分は、求償者及び他の資力のある者が、それぞれその相続分に応じて分担する。ただし、求償者に過失があるときは、他の共同相続人に対して分担を請求することができない。
○ 民法914条(遺言による担保責任の定め)
前三条の規定は、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、適用しない。
【参照・参考文献】
① 片岡武・管野眞一編著 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務(第4版)(2021年、日本加除出版)
② 潮見佳男 詳解相続法第2版(2022年、弘文堂)341頁~
③ 松原正明 全訂第2版 判例先例相続法Ⅱ(2022年、日本加除出版)
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